よみものColumn
世田谷美術館
投稿日:2022年12月18日 / カテゴリー:美術館
東京ドーム約8個分の広さもある砧(きぬた)公園は、都会であることを忘れてしまうような自然豊かな公園で、地域の憩いの場として親しまれています。そんな公園内北側にあるのが世田谷美術館です。
区立小・中学校との連携プログラム「美術鑑賞教室」
世田谷美術館が力を入れて取り組んでいる事業の一つに、美術館の教育普及があります。
1986年の開館以来、「美術館が身近な場所に感じられるように」という願いをこめ、世田谷区の全小・中学生を対象に来館を受け入れており、年間5,000人を超える子どもたちが美術館を訪れます。
サポートをするのは「鑑賞リーダー」と呼ばれる地域のボランティアの皆さん。時には絵の前に座ってみたり、触れて良い作品は手触りを確認してみたり。子どもたちの好奇心にそっと寄り添います。
世田谷美術館イチオシ!
お手軽なのに満足度大の「100円ワークショップ」
「予約なしで子どもたちが気軽に参加できるワークショップがあったらいいのに」
そんな一人のボランティアのつぶやきが形となり、2004年にスタートした「100円ワークショップ」。現在も人気コーナーとして続いています。
開催中の企画展に関連した内容で、ワークショップを通して作品鑑賞が深まることを目的とし、ボランティアの皆さんが工夫を凝らしています。
美術館スタッフも「これが100円でできるの?」と毎回驚く内容で、ワークショップのファンも多いそう。企画展開催中の毎土曜日13〜15時(8月中は毎金・土曜日)、どなたでも参加できます。
コロナ禍で生まれた逆転の発想
作品のない展示室
2020年から私たちの生活に影を落とし始めた新型コロナウィルスのパンデミック。準備していた展覧会がやむなく中止になり、海外から作品を集めることができない-。そんな状況が続いたとき、「建物そのものを見てもらおう」という企画が浮上しました。
世田谷美術館は建築家・内井昭蔵により「生活空間としての美術館」、「オープンシステムとしての美術館」、「公園美術館としての美術館」をコンセプトに設計されました。
そのため窓が多く、周囲の環境と一体化しようとする開放的な造りとなっています。
2020年7月4日から8月27日まで「作品のない展示室」として開放。
いつもは作品を展示している壁を取り払い、無料で一般公開しました。
「コロナ禍で疲れた心を癒してほしい」という思いと同時に、美術作品のない展示室を見てもらうことは「そもそも美術館とはどういう場所なのか?」を問うという側面もありました。
最終日には、ダンサーや音楽家等が集まり展示室でパフォーマンスを披露。
床を這う赤ちゃんや、窓の外から見学する人もいたりして、美術館全体が温かい空気に包まれました。
「美術館が美術の展示場だけであるというのは間違いである。美術館は美術と生活との関連をとらえ、示す場でなければならないと思う」。
コロナ禍を乗り越え、地域や自然との共存を目指す世田谷美術館の挑戦は続いています。
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■世田谷美術館
〒157-0075 東京都世田谷区砧公園1-2
TEL 03-3415-6011
開館時間:10:00〜18:00(展覧会入場は17:30まで)
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【取材を終えて】
「作品のない展示室」の記録を拝見し、まるで大きな窓から見える景色が絵画で、パフォーマンスをする人々が立体作品のように見えました。人が集い、周りの自然と融合する様子は、本来あるべき美術館の姿のような気さえします。これまで当たり前だったことが、当たり前ではなくなったコロナ禍。世田谷美術館の取り組みから、物事を違う角度から見ることの大切さを改めて感じました。
天野朋子/著